黒生1・妙義

 

   妙義

 
 なんでそういう流れになったのかは、今でもよく分からない。
最初は奴が珍しいプロレスのビデオがあるから見せてやるという話だった。途中までははっきりしている。お互い贔屓にしているレスラーが違ったのでそんな話をして、関節技はどうよとか話をして、あれは実践ではともかく試合ではやっぱり打撃系で決めたいよなあとか、そこまでは覚えている。
 で、組み手を試してみようということになって、畳の上で型を試して、…それから?覆い被さるようになってきた奴をなんで俺ははねのけなかったんだろうか。
 
 というわけで(どういうわけだ、と俺は現在自分を叱っているのだが)、そのまま、俺は何故か今布団の中で行為に埋没している。いや、いい男だとは思う。好きか嫌いか言われれば、そんなことは決まっている。今までこんな奴に会ったことはない。それはいい。
 
 
でも。
 
これは何か違うんじゃないんだろうか。
 
 
 
 
 
 
「んっ…」
漏れる声を押し殺そうと、口に手を入れる。その手がやんわりと捕まれて、奴の太い指が口内を犯した。
噛んでやろうと思ったのだが、舌がぬるりと奴の指と絡んで、思うように力が入らない。
奴のもう片方の手はもう随分前から俺の股間を好きにしている。
 
 
「…大丈夫か」
 
大丈夫な訳ないだろ、と思いながらも俺は荒い息をつくのが精一杯で答える余裕なんてなかった。
「んぁっ…」
腰がビクビクと動く。何がなんだかよく分からない。
 
第一、大丈夫かと低い声で囁きながらこの男がさっきからしているコトは何なんだろうか。
「や…っ」
俺のイチモツをしごいていた手が、更に後ろをまさぐる。もみほぐす。
なんだってのこれは。眉をしかめると、顔をのぞき込んで男が聞いた。
「…嫌?」
不安そうな顔をするな馬鹿。俺は思うが言葉はうまく出ない。
 
 
嫌というわけでは…ないと思う。俺だって力自慢で鳴らしている。
男に押し倒されて、本当に嫌だったらとっくに殺している。…殺していると、思う。結局俺が荒い息の中から言えたのは一言だけだった。
 
「貴様も…脱げ」
 
「…ああ」
 
自分でも何を言っているのかわからない。体が熱い。
当たり前だ。普段他人に触られないようなところを容赦なく触られているのだ。
男が体を離し、衣服を脱ぐ気配がする。俺は目を開けていない。
 
わずかに呼吸を整えるだけの時間だけ空け、すぐに湿った男の体は俺の側に戻ってきて再び覆い被さった。首筋に吐息と唇が降ってくる。こんなことは、知らない。
 
男はすぐに先ほどまで行っていた行為を無言のまま再開した。
 
「あっ…」
 
肌を滑る指が、敏感な部分を撫でて、まさぐり、そっとなぞり、つまむ。吐き気がするくらい気持ちがいい。こんなこと、あり得ない。
 
どこかで準備したらしい潤滑油が後ろに塗られる。くちゅ、と淫猥な音がして俺の内部に奴の指が数本滑り込んだ。
しがみつく指先に力が入る。その様子を見て、男が首をかしげた。
「やめておこうか?」
「こ、ここまで来て逃げるわけにはいかねえよ」
「何を言っているんだか」
耳元に少し呆れたような言葉が吹きこまれ、そのまま内部がかき回される。前立腺をくすぐられ、俺は思わず跳ね上がり、鼻にかかったうわずった声を出した。AVの女みてえな声。自分でも、信じられない。
「…力、抜いて」
「ぜってー無理」
「そっか」
甘い言葉一つないくせに、体の隅々まで調べ尽くされるような入念な愛撫が与えられる。手のひらが大きすぎるんだ。こんな大きな手で触られたら、誰だって心拍数が跳ね上がる。そのくせ、俺が一旦反応を示した場所は忘れることなく繰り返し刺激を与えようとしつこいくらい触ってくる。繰り返し、…丁寧に。
 
こする手は乱暴なクセに、肌を触るときにそんなに壊れ物扱うみたいに触るな。気持ちが悪い。おかしくなる。
 
「いい…加減に…」
「うん」
唇がふさがれる。
 
体が重なり、容積を増したお互いの性器がこすれ合う。
強烈な刺激に、唇でふさがれているのにもかかわらず、声が漏れる。
 
「あっ…」
「いい顔」
「馬鹿、なに…がイイ顔だ」
「うん」
「なんで貴様はこの状態でおっ勃ってんだよ!」
なんで服を着ていない俺を触りながら勃起してんだこいつは。
変態じゃねえのか。
「お前だって勃ってんじゃん」
「俺はいいんだよ、触られてるんだから。勃つの当たり前だろーが」
「理屈がよくわからない」
二本一緒に奴の大きな手でこすりあげられ、頭の中が快感で真っ白になる。
 
 こんなの、卑怯だ。
 
 
 
 
何回イッたのか覚えていない。
いわゆる体の相性がいいってやつだ。きっとそうだ。
 
 
最後の記憶では体中お互いの体液でベタベタだった記憶があるが、目が覚めると清潔な布団に寝かされていた。夢だったんじゃねえのかと思いつつ寝返りをうつと、非常に近くで、奴が幸せそうな顔で寝息を立てていた。なんだこいつは。
 
結局俺はあの後ケツも許してしまい、あんな太いモノはいるもんかと思っていたのだが、「もっと」だとか「離すな」だとか、思い出したくもないくらい色んな恥ずかしいことを言いながら快楽をむさぼった。
 
 あんなに気持ちがいいなんて、本当に卑怯だと思う。
 
そう考えたらあまりにむかついてきたので力任せに頭を殴ってやることにする。
「ぶっ」
寝ぼけ眼で奴が目を覚ます。
とはいえ布団があったのでそう痛かったとも思えない。
 
「…なんだよ」
「なんだよじゃねえよ」
俺がにらみつけると、奴はあろうことかフニャーと笑いやがった。
笑うと、目のトコに皺ができて、なんとも言えない柔らかい表情になる。
たぶん爺になってもこんな顔だ。
 
「…足りなかったのか?」
「は? ば、馬鹿言ってんじゃねえよ!一遍死ね、馬鹿!」
「はいはい」
 
俺が殴った場所をさすってから、男が俺の首を抱き寄せる。
ああやはり、こいつがまともに起きているときに思い切り殴ろう。
絶対に殴ろう。そうしよう。
 
 でも、今はこの腕の中で眠りに落ちてもいいのかも、しれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   二人の初エッチネタ。黒17歳・劉19歳くらいの設定・・・。(20080511)
 
 
 
 1 妙義 (初エッチネタ)  2 赤城 (境内喧嘩・上)  3 榛名 (夫婦喧嘩・下)
 
  2008年の風魔オンリーで20部限定コピー本で作った「黒生」より再録。
  生イメージです。ゲフンゲフン 
  今三年ぶりに読み返しましたが(2011 5月5日ですがな)、
  ・・・なんというか・・・その・・・・・
  若いな・・・・・! これが若さというものか・・・!みたいな・・・・・
 
  うん別に後悔はしていないんだけどね!