竜胆 (りんどう)
「だあれ?」
鈴を転がすような声の子供が、がさりと揺れた庭木を見上げた。
「君こそ、だあれ」
高い枝の影から顔を出したのは、強い瞳をした少年だ。
「ぼくは焔屋敷の麗羅」軒先から樹上を見上げている赤い着物の子供が名乗る。
「一番下の子?」木の上から声がする。少年は枝に腰掛けている様子だ。
「ううん。下からは二番目」
「焔屋敷の上から三番目は瑠羅さまだよ」
「瑠羅はちい姉さま。ぼくは上からは四番目」
枝の上の少年は短い時間考えていたが、やがてぱっと顔を輝かせた。
「わかった、ごめん、女の子だと思って間違えていたんだ。焔屋敷には学校に行っていない男の子がいるって、親父から聞いたことがある」
「ああ、こんな格好しているから」
麗羅が着ているのは真っ赤な着物で、女の子がよくやるように、高い位置で帯を結んでいる。かわいらしい顔立ちであることもあって、一見しただけでは、どう見ても可憐な少女にしか見えない。
「そうか、焔屋敷は兄弟が五人もいるんだ。いいなあ」
「でも、僕のほかはみんな女の兄弟だよ」
「俺は一人くらい妹とか欲しかったけどな。…ねえ、そっち行ってもいい?」
「おいでよ」赤い着物の麗羅が空に向かって手を伸ばす。
「飛び降りたいんだけど、戻れるかな」
「玄関から出してあげるよ。大丈夫」
樹上の客人は一瞬だけ間を置いて、身軽に庭の中ほどに飛び降りてきた。数枚の葉が、羽根のようにひらひらと落ちてくる。
「君はだあれ」
「羽根屋敷の小龍。項羽の弟だよ」
「ふうん」
「なんで麗羅は学校行ってないの」
小龍が覗き込むと、麗羅は目を伏せた。濃いまつげが影をつくる。
「まだ、力が自分で制御できないから」
「せいぎょ?」
「うん。ぼく、ものが燃やせるの」
麗羅が指を伸ばすと、ふわりと落ちてきた葉が一枚、目の前で焔を上げた。
「特殊系だ」小龍が感心したような声を出す。
里には体術中心の忍の他に、特殊系と呼ばれる焔や霧を自在に操る能力を持つ一族がいる。
「学校で、お友達や先生を燃やしたら、いけないでしょ」
「消せばいいんじゃねえの?」
「自分でわかって燃やせばいいけれど、わかんないときに燃やしたら困るんだって」
「へええー」
特殊系の忍は里でも特別扱いされるが、その力が強すぎるときには、こうして隔離されて育てられる場合があるのだ。
「学校って、楽しい?」
「楽しいよ。来ればいいのに」
「…そうだねえ」
風の音がする。
「小龍がいるのなら、早く学校に行けるようになりたいな。」
鈴を転がすような声で、赤い着物の子どもがつぶやいた。
麗羅強化月間SS。
竜胆の花言葉は、「悲しんでいるときの貴方が好き」。個人的に思い入れのある秋のお花です。
根が漢方薬になるのですが非常に苦く、竜の肝みたいだということからこの漢字があてられているそうな。見た目は可愛いけれど、根っこのところでクセのある麗羅の話の第一話のタイトルとしてはいいかなあと。
麗羅設定はこちらに置いてあります。
学校に行けなくて、友達が少なくて寂しい少年麗羅と、お母さんのいないおうちでお父さんにあまり愛されずに寂しい小龍少年の出会いの話。こんなことが伏線になって、麗小話が並行進行していきます。
どうかなあと思ったのですが、案外麗小推進委員メンバーが多かったので、ちょっとずつ書いていってみようかなと。
そんなわけで、麗羅は霧風より先に小龍と出逢っています。霧風頑張れ。
あ、うちは麗羅総攻で。次期総帥最有力候補にこのあと育っていきます。小次郎は足りないし、竜魔は詰めが甘いので、麗羅あたりが成長して総帥候補になっていくのだ。
それでもって攻麗羅同盟をりゅうきさんと作るんだい。
(20060112山羊座のシュラのお誕生日なのだ)
up:20060207 カミュ誕生日。
2006/02/07(Tue) 14:28