小雪 (こゆき)
「珍しい、霧風と喧嘩したの?」
麗羅がのんびりと針仕事をしながら憮然とした小龍に声をかけた。
外は小雪が舞っている。
「しらねえよ、あいつここんとこ機嫌が悪いんだ」
「へえ、霧風って穏やかな方だと思っていましたけれど」
「そうでもない。怒ったり笑ったり結構忙しい」
「ふうん、意外。何か心当たりは?」
「ねえよ。項羽と喧嘩でもしたんじゃねーの?」
「項羽と霧風が喧嘩?なんで」
「あいつら同じパートらしいから」
「パート…って、ああ」
麗羅がようやく合点がいったような顔をした。
「項羽と霧風のとこは、担任が音楽でしたね」
「あそこは毎年学芸会は合唱と合奏だから」
「優勝候補の常連。…でも、霧風ってそんな八つ当たりとかしない人じゃない?」
「さてね。とにかく最近近寄りたくない。…麗羅、何つくってんの」
「衣装。うちは『ベニスの商人』やるんだけれど、ほら、豪華でしょう」
「本当だ。すごいな」
麗羅が広げて見せたベルベットの衣装に小龍が素直に感嘆の声を出す。
「小龍は何するの?」
「俺? 俺のメインは恒例大道具」
「ああ、毎年そうでしたね」
小龍は手先が器用なので何でも作るのだが、特に木工に関しては技術科教師のお墨付きの腕前を持っている。そのため、毎年大道具では重宝されており、図面も引けるものだから他の学年まで出張して扉だのなんだのを作ることもある。昨年の開閉できる扉などは、壊すのがもったいないと、今も技術室に安置してあるほどだ。
「大道具ってことはそろそろ忙しい?」
「いや、だいたい出来上がった。去年ベニア板が届くの遅くて大変だったから、早めに購入してもらっておいたし」
「すごいね。仕事が速い」麗羅が小さく口笛を吹いた。
「その勢いでうちの学年の大道具も頼めないかな」
「やだよ。ライバルだし。麗羅のとこは兜丸がいるじゃんか」
「兜丸の大道具は大雑把でさ、イマイチなんだよね。…あれ、じゃあ小龍の学年、今年演劇?」
「うん。女子が張り切っちゃってね。俺も最後にちょっとだけ出ることになった」
「へえ、楽しみだな。主役、誰」
「雷炎」
「ああ、剣道道場の。女子が盛り上がっているのに主役は男の子なんだ」
「男女逆で白雪姫やろうってことになってさ。7人の小人とか従者とかみんな女子がやるんだけど」
「へえ。…で、小龍なんの役やるの?」
「…当日まで内緒」
「…」
麗羅が縫い物の糸を噛み切って顔を上げる。
「白雪姫で最後にちょっとだけ出る役?」
「…うん」
「もしかして」
「仕方ないだろ」
「断らなかったんですか」
「仕方ないじゃねーか」
「どうして」
「十蔵は継母の役だしさ」
「だからって」
「雷炎抱きかかえられるのって俺くらいしかいなかったんだよ」
「お姫様抱っことかするつもりなんですか?」
「見せ場じゃん」
「キスも?」
「みんな聞くんだなあ」
「するんですか」
「当日まで内緒」
「・・・」
「なんだよ、麗羅」
「霧風がなんで機嫌が悪いか、教えてあげましょうか」
「聞きたくない」
麗羅が大げさなため息をついた。
「まったく貴方って人は」
「なんだよ」
「霧風とキスとかしてないんですか」
「なんだよそれ」
「したいなあと思ったことは? されたこととか」
「それ、答えなくちゃいけない質問?麗羅」
「…ふうん…」
麗羅が襟にレースのついた衣装を小龍の顔に押し付けた。
「うわ」
「だったらぼくも白雪姫に名乗り出ようかなあ」
「?」
衣装をはずした隙に、小龍の唇を麗羅が掠めとった。
「…お前なあ」
「お、まんざらでもない反応」
「本気じゃないくせに」
「・・・本気だと困るくせに」
「・・・」
「ぼくに決めちゃいなよ」
にっこりと麗羅が極上の笑顔を作る。
「…考えておく」
「前向きなお返事と受け取りますよ」
ちらちらと舞い落ちる雪は白い羽根に似ている、と
いつだか霧風がそんなことを言っていたことを小龍はぼんやり思い出していた。
さあ続きますよBL王道の学芸会女装編(天界編女装)2。
こちらは小龍サイド、ゲストは麗羅。モテモテだな小龍!
麗小(小麗?)もいいと思う!いいと思うのはわたしだけなのかな!
オチは霧風サイドからの「班雪」で明らかに!
SIDE A「雪雷」(ゆきいかずち) 雷炎サイド 白雪雷炎の略称っぽいタイトル。
SIDE B「小雪」(こゆき) 小龍サイド
SIDE C「班雪」(はだれゆき) 霧風サイド という流れです。
さすがに霧雪って言葉はないみたい。
雪霧…ってもうそれはダイヤモンドダストだもんな。
霧氷だと違うしなー。「霧氷」は霧氷で別な話がかけそう。
ていうかいつか書くと思う。
まあ単独でも読める形式を狙っておりますが。
それぞれ1月の雪の季語でもあります。小龍亭のおかげでいつも傍らに歳時記が。
麗羅設定はこちら。 裏有です。
(2005/11/23)
2005/12/07(Wed) 15:56