白炎 15

 白虎の出てこない白虎×紫炎シリーズ(ミッション・きらめき☆バレンタイン編開始)


 妖水先生の小悪魔教室 15 紫炎・怒濤のバレンタインデー・・・ミルキーな秘密の夜編




「で、首尾はどうだった!」
なんというか、紫炎の雰囲気が非常に暗いので、妖水はつとめて明るい声をかけた。
彼はおちゃらけるときは徹底してふざけるものの、こういう時のバランス感覚は大変優れている。

「・・・首尾って・・・」
「うわ、近寄りたくないオーラ全開」
「目の下にクマが・・・」
壬生もなんだか紫炎がかわいそうになるほど、今日の紫炎はブルーな様相だ。
「クマ・・・熊がどこに居るって・・・」
「大丈夫か紫炎。熊が見えるのはお前の妄想だ」
「熊・・・」
「うわあ、なんでしょうかこの雰囲気は」
「てことはアレだな、ダメだったのか、チョコレート大作戦は」
「・・・」
紫炎の大きな目に涙がじんわりとにじみはじめる。

「・・・」

「うわ」 「あれ」
そのまま、声を出さずに紫炎が泣きじゃくり始めたものだから、いつも明るいノリで突っ込む二人もうろたえ始めた。

「お、おいおい!どうしたんだよ!」
「そ、そうですよ紫炎!どうしたんですか!」
「・・・っ・・・」

壬生が紫炎の背をさする。しばらくその様子を見ていた妖水が机をバンと叩いて立ち上がった。
「妖水?」
「あの馬鹿野郎・・・っ!紫炎を泣かせやがって!落とし前つけてきてやる!」
「ちょ、まってください、妖水!」
なんとか妖水が飛び出すのを押さえる壬生攻介。
出口のドアノブをつかんだ妖水は、しびれる何かに思わず手をひっこめた。
店の入り口にはマスターが封印の呪札を貼っていたのだ。
「・・・ちぇ」
利き手を押さえた妖水がようやく飛び出すのをこらえた。

「・・・話せ。何があった」
「そうですよ。話してくれないと、全然わかりませんよ、紫炎」

「えっ・・・えっ・・・ 」
しばらくしゃくりあげる紫炎だったが、甘酒を飲んでしばらく経つと随分落ち着いてきた様子だった。

「バレンタインデー、部屋に呼んで、チョコレート渡す手はずだったんですよね?」
紫炎がうなずく。紫炎の家の姉はBFとの大事なデーとがあったので留守だ。『あんたうまくやんなさいよ!』と、相手が誰かまだ知らない姉は鼻歌まじりで出かけていったのだ。

「部屋は少し暗め、媚薬の香は俺ん家からの秘蔵品持ち出し、食事はまあ手作りは諦めてピザのお取り寄せ、風呂も準備した状態で、BGMはしっとりジャズ。後半はエロいクラシックのCDも準備して、一体何がダメだったんだ」
「ダ・・・ダメじゃなかったんだよう・・・」
「じゃあなんで泣いてんだよ、貴様は」
「最初は・・・ダメじゃ・・・なかっ・・・たんだけど・・・」
「妖水。ちょっと黙っていてください」壬生が妖水を牽制する。

「映画はわたしが貸したやつでしたよね? 妖水がポルノビデオにすり替えようとしていたのは阻止した筈ですが」
「お前、『アンアンくのいち地獄編・戦国バレンタイン大作戦』は名作だぞ!」
「却下です」壬生がばっさり斬って捨てる。

「んで、どうしたんだよ」
「気合い入ってましたよね」
うなずく紫炎。

「シャンパングラスにアルコール、話題はまた亀の話か?」
「ううんと・・・お仕事の話とか・・・」
「まあ、最上の選択とは言えんが・・・で、どうなった」
何か応えようとした紫炎の瞳に再び涙が盛り上がり、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
「だーっ!だから、泣くんじゃねえ!俺がどうにかしてやるからよ!何があった!あいつを闇に葬り去るくらい、なんとでもしてやるぜ!」
「だから、黙っていてください、妖水!」
「・・・白虎に、ひ・・・ひどいこと言っちゃったぁ・・・」
「ああん?」
「何を言っちゃったんですか?」
「な、なんか、その場のノリで・・・『白虎って、ときどきひどいこと言われてるけど、みんなかばってくれてるよね~』とか・・・」
「俺、別にかばってねえぞ」
「だから、黙っててください、妖水。貴方がしゃべると話がややこしくなる」
「んで、白虎が、『えー、俺ってどんなこと言われてるの?』って・・・しまったと思ったんだけど・・・」
「なんて言ったんだよ」
「『白虎ってもうダメだ』とか言われてるよ~とか・・・」
「なんでそんな墓穴を掘る方向に進むんだ貴様は」
「で、白虎は?」
「『あ~、ソレ、俺に内緒にしててくれたんだ?』とか・・・」
「なんだ白虎、男らしくねえな」
「し、しまったとか思ったんで、フォローするつもりで・・・『え、白虎が本当にダメでなければ言っちゃうけど』とか言っちゃって」
「うわ、上塗りしてやがる」
「『まあ、俺ダメだしねえ』とかなっちゃって・・・」
「けっ、白虎もケツの穴がちいせえなあ」
「妖水!」
「うああああああああああああああああああああああああああん」
「あーもう、白虎のヤツは仕事は出来るんだが、人間関係が下手すぎるからなあ」
「彼も貴方には言われたくないと思いますよ」
「残念、俺はこれで結構うまくヤッてんの」
「まあ、白虎は営業系はキョクタンに苦手ですよね・・・仕方ないというか」
「わ、わかってるんだよう~!わかってんのに、白虎だって自分で営業とか人と合わせて話すのとかが苦手だって、わかってんのに、・・・自分で白虎にそんなこと言っちゃったんだよう~」
「で、なんだ? そんなんで白虎が部屋出て行ったのか? ちいせえ野郎だ」
「ご、ごはん食べたけど・・・そのまま帰っちゃった~・・・」
「うごおおおおおおおおおおお!!!!!」
妖水が立ち上がる。

「あああああああああ!!!許せん!貴様もそんなにうじうじするな!!!」
紫炎がびくっとして泣きやむ。
「壬生もそいつを甘やかすな!いいか?あいつが営業できねえのは誰がみてもそうなんだよ!自分をもっと上手く売り込めねえヤツは、山奥で職人でもやってろってんだ!!それを指摘されたくらいで、うじうじうじうじするようなヤツぁ、こっちから願い下げにしろい!」
「で、でも・・・」
「でももクソもねえ!お前が、一ヶ月前からクソ不味いチョコレートをいくつも爆発させながら臨んだ当日に、本当のこと言われたくらいで機嫌悪くなるヤツなんざ見限っちまえ!」
「嫌いになんて、なれないんだもん・・・」
「重傷ですね」
「あーむかつく!あのな、そんなんじゃ別に嫌われねえから、お前、安心しろ!」
「そ・・・そうかな」
「おうよ。今頃あいつもお前にそんな態度とったこと反省してる頃だから、いいか、一個だけ俺の言うこと聞いておけ」
「う・・・うん」
「2日だけ連絡取るな」
「え」
「その勢いなら、2日目か3日目に向こうから連絡が来る。こなけりゃ3日目にお前から連絡とってよし。以上」
「・・・みゅ」

「あーくそ。面白くねえ。次は3月14日だったな」
「・・・まだ、やるんですか」
言いながら壬生は口元を優しくほころばせる。
なんだかんだいって、妖水は紫炎のことを見捨てる気などさらさらないのだった。
 
 たぶん、彼の言うとおり、2日か3日目には白虎は不器用な電話をかけてくるんだろう。

「・・・本当?」
「おう。保証してやる」

涙目のまま、紫炎がこくんとうなずいた。


 2月にしてはあたたかな一日の午後のことである。





  20070214

 

 




 元ネタは☆船長さんからでっす。



2007/02/19(Mon) 18:40
 

 このシリーズ、一応ここで終了。大丈夫だよ。ちゃーんとみんな誰かに愛されているんだよ。

 んで、ここでなんですがその後その船長さんのご結婚の儀が決定したとこのことで、大変おめでとうございますです。みゅん!このシリーズ全部捧げるね!