白虎の出てこない白虎×紫炎シリーズ(シリーズらしいよ!)
妖水先生の小悪魔教室 10
(新展開・ミッション・どきどきペンダント編 前編)
「もう二度と来ないとか言っていたくせに」
にやにやしているのは壬生攻介である。テーブルの向こう側でむくれているのは夜叉八忍の一人、妖水である。
「別にマスターに会いたかったわけじゃねえよ。ここの珈琲くらい味が濃いのが他の店じゃ飲めねえから、仕方なく来てやってんだよ」
憎まれ口をたたく妖水であるが、彼は先日この喫茶店でちょっと大暴れをやらかし、先代夜叉一族の副総帥まで勤め上げたマスターに一週間の出入り禁止を申し渡されたのである。
「謹慎が解けて、よかったね、妖水!」
「てめーが言うな、紫炎!」
ニコニコとガトーショコラのミニケーキを食べているのは紫炎である。先日の騒ぎの原因は、もともとは彼であった。
「謹慎中とはいえ、任務だったんでしょう?東京でしたっけ」
攻介が聞くと、そうだといって妖水がポケットの中に手を入れた。
「お前らに土産があるんだ。ほらよ」
「なんですか?」
「仕事が浅草橋のあたりだったからよ。ついでに秋葉原まで足を伸ばして来た。壬生、こないだコレ欲しがってたじゃね?」
「開けていいですか」
「アキバの電気街で時間が取れたからな。74年の型だそうだ」
「おお」
壬生がほしがっていた真空管だ。
「助かります」
「お前にはコレ」
「なあに~?」
小さな紙袋から出てきたのは、紫炎の髪の毛と同じ色をした赤瑪瑙が付いたペンダントだった。
「おや、首飾りですか」
「チャラチャラした鎖とかだといやらしいが、このくらいの黒い革ひもだったら、オシャレだろ?他の奴らだと似合わねえけど、お前になら合いそうだと思ってよ」
「へえ、妖水って意外とセンスいいんですね」
「意外は余計だ」
「本当にもらっちゃっていいのコレ?高かったんじゃないの?」
「浅草橋って言っただろ。あの辺、アクセサリーパーツや貴石とかの卸問屋街なんだよ。みんなゼロ一個くらい安いから気にすんな」
「ということは、500円くらいだったんですかこれは」
「壬生、お前頭はいいかもしれないが、嫌な奴だな」
「貴方に言われたくはありません」
横で妖水と壬生が牽制しあっている間に、紫炎がいそいそとペンダントを付けてみた。
「あ、似合う」 壬生が顔を上げる。
「だろ」 妖水がふんぞりかえった。
「男物ではないんですね」
「紫炎にはゴツイのは似合わねーって。このくらいがいいんだよ」
「・・・ありがとう」
細くて黒い革ひもには赤瑪瑙の飾りの他にシンプルなシルバーパーツがついていて、確かに妖水の見立て通り、彼にそのペンダントはよく似合っていた。
「さて、ミッションネーム、ドキドキペンダントだ」
「また作戦会議ですか!!」
「うわあ、またなんか変なミッションネーム付いてる!!」
「貴方、こないだマスターに言われたこと、懲りてませんね!」
「当然だろう。紫炎。お前、奴からネックレスとか指輪とか買って欲しくねえか?」
「うわああああ!指輪とか貰ったら、死ぬかもしれない!」
「なんで指輪ひとつで死ぬんですか」
「まるで呪いの指輪だな」
「違うよ二人とも!!!!嬉しくて死ぬんだよ!バカバカ馬鹿~」
「さて、妖水。なんですかそのミッションネーム・ドキドキペンダントってのは」
「フッ。よくぞ聞いてくれた壬生攻介よ。いいか紫炎。幸せになりたかったら、だまされたと思って俺の言うとおりにしてみろ」
「う・・・うん・・・」
「そうですね。これ以上だまされることもそうはないでしょうからね」
壬生が冷静なコメントを入れるが、紫炎は真剣な面持ちで小型のノートを開いた。
「俺の名前を出して構わないから、『こんなのもらっちゃった(ハート)すっごくうれしいんだけどナ』を、まずはアピール」
「ちょっと待ってください。そこの(ハート)は必要なんですか」
「重要だ。壬生は無視して次行くぞ紫炎。次が決め手だ」
「うん!」
「『でも・・・白虎からこーいうのもらえたら、もっと・・・もっと、嬉しいんだけどナ(チラリと上目遣い)』だ!」
「おおおおお!」
「そ、それは効き目がありそうですね!」
「ち・・・ちらりとうわめづかいっ!」
「そうそう。んで、会う時には少し首のあたりが開いた服を着ていって、ペンダントが目立つようにすること。うまくいけば向こうから『それ、どうしたんだ?』とくるし、気がつかなければこっちから『こないだ妖水が東京のお土産をくれたんだよ~』と話題を振る」
「浅草橋で買ったって言うんだね!」
「ばっかもおおおおおおおおおおおおぉん!」
「うわ!!どこが駄目だったんだよう~!!」
「他の男の話をするときには余計な情報は不要!それでもし『浅草橋か~。あそこ、秋葉原の近くなんだよな』『壬生がマニアックな真空管をほしがっていたな』『そういやラジオ会館に最近行ってねえなあ』『風魔の小次郎フィギュアの発売はどうなっちまったんだろうな』『あの辺、メイド喫茶とかあるんだろ』『忍者喫茶とかできたら流行しねえかな』などと話題がそれる事を恐れろ!」
「要点がそれすぎだよ!」紫炎が叫ぶ。
「・・・成る程。要点を絞って、狙いに最短距離で近づくってことですね」
「そうだ壬生。その辺、俺なら安全パイだろうし、東京といえば仕事のついでだったんだろうという雰囲気もバッチグー」
「妖水・・・以前から思っていましたが、もしかして貴方、すごい才能があるのかもしれませんね」
「おう。今更気がついたか」
「そ、そーすると、白虎は、心が動いてくれるかな・・・?」
「お前に惚れてんなら、動くね」
「そうですね、ネックレスかどうかはともかく、何かプレゼントくらい」
「さすがミッションペンダント!!」
「ドキドキペンダントだ」
「どっちでもいいでしょう!!!」
さて、作戦はうまく・・・いくのかな?
(20061122)
up:20070112
2007/01/12(Fri) 16:52