白炎 09

妖水先生の小悪魔教室 9
  まだまだ続くよ!


「うあああん、ひどいよ妖水、いきなりデコピンなんて~!!」
「けっ、あー、白虎がなめた紫炎のデコにさわっちまった」
「妖水!私の服で拭かないでくださいっ!」


 今日も元気に夜叉一族指定喫茶店「船長」で秘密会合中の夜叉の若人たちは、現在紫炎とその恋人についての白熱した論議のまっただ中にいる。


「しかしよ~。ビジネスホテルとはいえ、俺様がセッティングした夜景の綺麗な雰囲気のいいスペシャルホテルで、同じ部屋に泊まりながらおでこにチューだけってのは男としてどうよ」
「紫炎としては、いつだってOKなんでしょう?」
「攻ちゃんっ!いっ、いつだってOKだなんてっ!恥ずかしいこと聞かないでようっ!うあああああ、恥ずかしい!!死ぬ!」
「あーはいはい、んじゃお前が死んでいる間に次の作戦を練るか・・・」
「作戦って」

 壬生攻介がため息をつきながら、テーブルに突っ伏す紫炎の柔らかい癖毛を撫でた。

「壬生っちは優しいにゃあ~」
「紫炎はよく頑張っていますよ。無理に進展させないでもいいんじゃないですか?ねえ、妖水」
「ふははははははははははははははははははは!甘い!甘すぎるわ!!ストロベリーパフェの上に蜂蜜をかけたごとく甘い!!8月30日まで宿題に手を付けず、あと1日でなんとかなるんじゃないかと夢見る男子中学生のように、イベント3日前まで原稿が真っ白なのに新刊出しますと告知したままの同人女のように甘いわっ!」
「うわー、妖水が無駄に燃えていますね」
「壬生っち~」

「壬生!考えてみろ!とにもかくにもおでこにちゅーという、身体接触まで来たのだ!小さくとも結果は結果、一気に駆け上るのではなく、まずは小さな規模の目標を達成していくぞ!」
「・・・貴方は忍びよりも経営者に向いている気がするのは私だけですか」
「俺も最近自分をそう思うぜ。松下幸之助の本とか、胸にビシバシくるんだよな」
「壬生っち、マツシタコーノスケって誰?歌舞伎の人?」
「それは松本幸四郎です」


「ええい面倒!次の作戦にいくぞ!次回のミッション、クリスマスに焦点を合わせるか、それとも正月の姫はじめか、2月まで待ってバレンタインとホワイトデーのコンボで攻めるか・・・」
「ひっ・・・、姫始めってっ!」
「どちらにせよ、当の白虎の気持ちでしょうから、私たちが何かできるってわけではないと思いますよ、妖水」
「壬生!お前、ここでひいたら男がすたるだろう!こうなりゃ意地だ。絶対に紫炎の本懐を遂げさせてやる!」



 コツン、と乾いた音がして妖水の後頭部に珈琲のまるい皿が円盤のように当たった。


「ってえええええええっ!何しやがるんだっ くそじじいっ!」

妖水がカウンターを振り返る。
カウンターからマスターが珈琲皿を投げたのである。妖水も忍び、皿は受け止めたものの、後頭部にはそれなりに痛みが走ったらしい。

「・・・お前はいかにも色々わかっているような偉そうなことを言っておるがのう、」
某宇宙船番組のスポック船長によく似たマスターが、拭いている皿から顔を上げないままで言う。
「相手の男の子の、彼に手を出せない気持ちが、わからないのか、馬鹿者よ」

「ああ!わかんねえな!紫炎が抱いて欲しいって思ってんだぜ?それを抱くのが男じゃねえのか?!」
「よ、妖水っ!だ、だだだだだ抱くとかだいてほしいとかってっ!!!」
紫炎が真っ赤になって抗議するが、妖水はそのままカウンターに向かって行った。
「白虎が踏み出せねえなら、俺たちが後押しして何が悪いんだよ、じじい」

「・・・男も、嫌われたくないときがあるのじゃ。意地になってはいかん」

「・・・マスター」
「大事にしたいという相手が出来たからといって、すぐに手を出すのはお前がまだ若い証拠」
「ああ若いさ!ピチピチだぜ! それが何か悪いのかよ」
「抱かなくても、相手を大事にする方法はいくらでもあろう」
「・・・」

 夜叉一族指定喫茶店「船長」のマスターは、先代の夜叉一族副総帥の実力者である。現在は引退して、ここで喫茶店を経営している。

「ひよっこが、わめくでない」
「ひよっこだからわめくんでえ」
妖水も負けていない。

「いい女だなあと思ったら、この相手を大事にしてえと思って、大事にする。それが愛じゃねえか」
「ぶ!妖水、貴方愛について語っちゃいますか!」
壬生が突っ込む。

「セックスだけが大事にする方法ではないぞよ」
「それはあんたがじじいだからだ」
「いつかわかる」
「けっ」
妖水がマスターに背を向ける。

「あんたがどう言おうと、俺は健康な男だからな。いい女とはやりたいし、やる以上は満足させる!セックスはな、一番わかりやすいんだよ」
「妖水~!!」
「フォッ、インポになると悩むタイプじゃな」
「んだとぉ!こらくそじじい!カウンターから出ろ!」
「妖水!マスターに向かってなんてことば使ってるんですかっ」
「やめなよう、妖水~」

 その後、大暴れした妖水は、結局一週間ほど喫茶店「船長」に出入り禁止を食らうのであった。





(20061217up)

シリーズ9までまいりました。年内はここまで。
  マスターの男にも嫌われたくないことがあるのじゃ、は昭和みちたかおねいさまのコメントよりいただいた助言です。

 そうそう。ひよっこだからわめいたり、ひよっこだから突っ走るんです。

 


2006/12/22(Fri) 21:50