白炎 06

白炎 6


 妖水先生の小悪魔教室 6
 
    番外 妖水先生と薩摩おごじょ



「九州の女の子となんて、いつ知り合ったんですか」
紫炎が席を離れた隙に、壬生が妖水に小声で訪ねる。
「あー?俺の話?」
「そ、そうですよ」
「任務」
「客ですか?」
「うーん、客っていうか、九州の島津のご隠居がいるだろ?」
「島津家ですね」
九州薩摩の島津家といえば、有名な一族である。
そこのご隠居は、今でこそ一線を退いたものの、政財界に名を馳せた大物だ。

「あそこの孫娘が島津忍軍の若大将と結婚してて、そこの娘なんだよね」
「ご隠居のひ孫にあたるわけですか」
「そうそう」

「…島津忍軍っていったら、表舞台にこそ出ませんが、忍びの名門じゃないですか」
「ま、忍びの世界じゃな。でもさ、お袋さんはまだ若くて、ご隠居は随分かわいがっていたらしいんだけど、そんな裏の世界の男と大恋愛をしちゃって、むりやり引き裂かれて、そんなんだから親は駆け落ちで一緒になったクチで」
「へえ」
「島津家の孫娘に手をだしたってことで、オヤジの方は追放されたらしい。母親も彼女をあまり構ってやらなくてさ、そんなんで大きくなったもんだから大人には不信感があるし、なまじ腕力があるもんだから、レディースの頭やってたんだよ、彼女」
「・・・レディース?」
「最初会ったときなんか、金髪で特攻服でよー、今時『最後の硬派』名乗ってて」
「うわあ」
「レディースの後輩が麻薬中毒者になってね、頭だった彼女が原因を追及してたらヤクザからんで騒ぎが大きくなったとこで、心配した島津のご隠居が、我らが夜叉一族に彼女のボディガードと安全確保を依頼してきたってワケ」
「それ、いつの話ですか」
「んーと、一昨年かな?つきあい始めたのは去年だけど」
「へえー、なんかロマンチックな出会いだったんですね」
「うーん、そうでもないぜ?最初あったときはあいつ、血みどろで金属のチェーンと釘のついたバット振り回してたからなあ」
「・・・・・・・・・」

 壬生が気持ちを落ち着けるために珈琲をすする。

「・・・そ、そんな出会いの女性と、なんでつきあおうって思ったんですか・・・」
「だっていい女だったんだもん」
「あー、スタイルがいいとか言ってましたっけ」
「それもあるけど」
そうだなあ、と言って妖水がテーブルの上のレシートを手に持った。

「割り勘するじゃん、お前いくら払う?」
「は?」
「お前は珈琲だから470円だろ、面倒だったら500円出すじゃん?」
「ああ、そうかもしれませんね」
「一回食事したときがあってさ」
「彼女とですか」
「そうそう。あと数人いたんだけど、彼女が自然にレシート持って出たから、誰が払うのかなあと思っていたらさあ、次に電卓持ってきて、一円単位まで割るんだよね」
「一円単位まで、ですか?」
「そうそう。それで、『一人567円ね』って、一円単位まで言うんだよ。おかしくてさあ」
「・・・かえって払いづらいですよね、ソレ」
「うん。まあでもそのときにさ、結構まともで真面目な子だなあーって思って、そのあと声掛けた」
「・・・へええ」

 どこから見てもヤンキーのレディースの頭が、計算機を片手に『567円ね』というのは不思議にほほえましい感じがして、壬生もふっと口元に笑みを浮かべた。

「なんか、いい話ですね」
「おう、そしたらよ、あいつも結構そんなんだから苦労してて、悪い男にだまされたりしてたこともあって、てか駄目な男としか付き合ったことなかったみたいで」
「へえー」
「だって、割り勘で当たり前だと思っている時点で、男と付き合い慣れてない感じじゃね?」

人がどこで人を判断するかというのは、微妙なものなんだなあと思いながら壬生はうなずいた。

「そういうもんなんですかー」
「まあな、・・・ま、俺の話はそんなんでいいだろ」
「あれ、照れてます?もしかして妖水」
「うるせえな、俺の話はどうでもいいだろ」
 妖水が赤面しているような気がするのは気のせいではないだろう。


「ただいまあ」
紫炎が帰ってきた。
「おう、スッキリしたか?」
「な、何がスッキリだよ!違うよただのトイレだよ!!」
「まあまあ、隠さなくたっていいぜ?手は洗って来たんだろうな」
「妖水のバカバカばかばか~!!!!」

 差し込む日差しが明るい平和な午後の話である。









 喫茶店「船長」珈琲470円(税込)。
 たまにはそんな王子様とお姫様の話。

 最後の硬派ってのは、元ネタは「男坂」です。
 あれも未完のままなんだよなあ(笑)ご当地硬派とかバンバン出して、男坂こそリニューアル連載しないのかな。男坂なんて、まさにチャンピオン向けのネタだと思うんですけれどね。



 (20061122 パラダイス銀河Ⅳに行ってきますw)



2006/11/22(Wed) 01:10