水際
久しぶりに兄と寝た。 同じ床を取ること自体久しぶりだった。
懐かしい体温は言葉も必要なくて、夢も見ないほど深く眠っていたようだった。
「もう、朝」 「昼だな」
今日は特に用事もない。人も出払っているのか、屋敷は静かだった。鳥の声が聞こえてくる。 弟子の一人に頼んでおいた鳥の餌はきちんとやってくれただろうか。
なんだかとても眠くて、小龍は体を丸めた。今まで眠っていなかった分なのか、項羽が帰って来てからというもの、周囲がおかしがるくらいに眠い。小次郎みたいだ、と先日も竜魔に笑われた。
「…九州できいた噂なんだが」 弟の髪を撫でながら兄が口を開く。 九州は行方不明だった兄が記憶を失ったまま二年間暮らしていた場所だ。
「先代の羽根は夫の他に好いた人がいて」 「…?」 「息子が二人いるのだが、父親はそれぞれ違うという噂があったらしい」 「…は?」
小龍が体を起こす。
「噂だ」 「先代の羽根って」 「母さんのことだろうな」 「父親って」 「馬鹿な噂だ」
二人は双子と間違われるくらいによく似た兄弟だったので、里ではありえない噂話だった。
「九州あたりじゃ、俺たちが二人揃っているところを見る人もいなかったからな。そんな噂が流れたんだろう」 「…まさか」 「だが、その噂を信じた男が里に一人だけいた」 「いつから」 「俺なりに調べた。親父のお前に対する執着は普通じゃない」 「…」 「母さんが叔父さんたちと仲がよかったのは本当だ」 「血がつながっている兄弟だろ、それはありえない」 「あの代のくのいちでは全国一の腕だった。美しい人だったし、懸想する男はそりゃ幾人もいただろう」 「俺が親父の息子じゃないと、ずっと、そう思われていたのか?」 「…もう少し眠れ」
「俺がいる」 項羽の声は優しい。
外では雲雀のさえずる声がする。
(20060313)
船長さん&ちあきさんからリクで、 「項小ならなんでもいい!」でした。 うちは霧小サイトですってば!
水シリーズも今回でほぼ終わり、次回から新展開…のはず。
2007/06/27(Wed) 23:48
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