水仙
「正直むかつくよね」
麗羅の毒舌が全開で、霧風は苦笑した。
「ブラコンって言うんだよあれは」
「そんなに食べると太りますよ、焔屋敷の若主人殿」
「甘いものでも食べなくちゃやってられるかっつーの」
麗羅の目の前にあるのはチョコレートがたっぷりかかった大きなパフェだ。
「いらいらするときには甘いモノに限るんだよ、脳に糖分がいくからね。霧風も上品ぶってないで注文しな。ここはぼくのおごりだから」
「…そうですね」
霧風がメニューを手に取る。小さめのケーキくらいはつきあってもいいだろう。
「小龍も小龍だよ。項羽が帰ってきたとたんに元気になっちゃってさ」
「いいことじゃないですか」
「そうだけど」
「むかつく」
霧風が笑ったので、麗羅がまなじりを上げた。
「一緒にお前もむかつけ!」
「だって」
おかしな話だが、いろいろあったことを差し引いても、自分に素直な麗羅は可愛いと思う。
霧風はそこまで素直になれない。属性の違いなのだろうか。不思議なものだ。
「じゃあ、レアチーズケーキ」
「甘いな、いちごスペシャルパフェにしろ」
「どうして」
「ぼくがおごるんだから文句言うな」
霧風の笑った表情が、困ったように笑う小龍の笑顔に似ていて、麗羅はまた不機嫌そうな顔をする。
どこかで、水仙の花の香りがしていた。
水仙はもちろん水中に映った自分の姿に恋をしたナルキッサスの伝説から。
自分と同じ顔の兄弟を深く愛するのってどんなんだろう、という麗羅の心の突っ込みを表現していたりして。
まっーたく「正直むかつくよね」だな!
2007/06/03(Sun) 14:11