水木
長いこと死んだと思われていた長男の2年ぶりの帰宅に、羽根屋敷がどのような騒ぎだったのかはわざわざ書くまでもない。
ドラマのような感動的な対面のあとで、数日間通しで祝いが行われた。
里じゅうの人が呼ばれ、祝いの宴がしばらく続き、その豪華さは語りぐさになったほどである。
「…抜けてきてよかったんですか」
「さすがに毎晩だと疲れる」
霧風が霧屋敷の奥にある自分の部屋に帰ると、小龍がころんと横になっていた。
「羽根の御大、嬉しそうでしたね」
「ああ。これであの馬鹿親父も体調よくなるんじゃないかな」
「病は気から、というわけですか」
「うん」
あんな父親であっても、健康を害するのは心配らしい。
霧風は目を閉じている小龍の隣に座って、短い髪を撫でた。
「…久しぶりに貴方に触る気がします」
「そうだな」
項羽の帰還後、本当に忙しかったのだ。
挨拶回りはもちろん、仕事からなにから、すべて段取りは後ろで小龍が取り仕切っていたことを霧風は知っている。
「…おかえりなさい」
霧風の言葉に、小龍がそれまで閉じていた目を開けた。
「俺は別におかえりなさいって言われる立場じゃないぜ?」
「…なんとなく」
項羽が帰ってきて、ようやく小龍が小龍に戻ってきたようで、つい口をついて出てきた言葉だったのだが、少し考えたような顔をしていた小龍が少し困ったように笑った。
「…ただいま」
久しぶりに小龍に触るような気がする。
(200060301 UP・20070428)
2007/04/28(Sat) 15:25