水月
「仲直りはしたのか」 「何の話」
麗羅が目をすがめる。今日の任務は竜魔と一緒だ。
空にはすでに月がのぼっており、眼下の湖にその姿が映っている。 要人警護、ということなので寝ずの番をしろと言われているが、特に敵襲の心配はなさそうな静かな夜だ。
「お前らが喧嘩するの、珍しいだろ」 「喧嘩してないよ」 「してなくはないだろ」 「ぼくたち、ちっちゃいころから喧嘩したこと一度もないんだよ。信じなくてもいいけど」 「…ほう」
麗羅が木の枝に挟まっていたカラスか何かの羽を拾う。 月明かりが影を作るほど明るい。
「趣味とか好みとかよく似ててね。映画とか見に行っても、突っ込むとこ一緒でさ」 「そういうものか」 「竜魔、映画とか見ないでしょ」 「2時間も暗い箱の中に閉じこめられるのが好かないし、何か時間の無駄を感じる」 「風情のない男だなあ」 「風情云々ではない…が、話をそらすな。これでも心配しているんだぞ」 「わかってるって」
麗羅が手に持った羽根を指先でもてあそぶ。
「いっそぶつかって来て、喧嘩してくれればいいんだけどね。なかったことにされるのってのがかえってキツいんだよねえ」 「…なんだかお前も苦労してるんだな」 「ぼくは結構苦労性だよ」 「そうは見えないがな」
麗羅が月にむかって羽根を投げる。 羽根は弧を描いて丸い光へ飛んでいった。 月を抱いた湖面がさざ波に揺れる。
(20060313)
新シリーズに突入、「残」から「水」へ。
残響というタイトルも考えていたのですが、そろそろ新展開。
竜魔と麗羅の組み合わせってあまり書いてなかったので珍しい二人でお送ります。そーいや板場設定では竜・麗・琳・兜が年長さんの同じ学年設定だったんだよな!
「水月」で、「スイゲツ」と読ませて水と月、水に映る月。手を伸ばしても実体が無い。
なかったことにされるのって、結構つらい。 「水月」と書いて「くらげ」とも読むのは内緒ですがね。
2006/08/28(Mon) 14:21
2007/02/11(Sun) 00:19
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