残花
「やめろって!」
小龍の声に驚いて霧風が庭に回ると、羽根屋敷で暴れているのは劉鵬だった。
「劉鵬!貴方一体何を…!」
「ええい、止めるな霧風!」
劉鵬が力に任せて羽根屋敷の一室から家具を庭に放り投げている。劉鵬がこうなったら誰にも止められない。机、椅子が鈍い音を立てて庭石に当たって壊れていった。
「劉鵬!」
それでもさすがに止めた方がいいだろうと一歩前に出た霧風を制止したのは麗羅だ。
竜魔もそばに立っているが、腕を組んだまま何も言わずに立っている。
「一体、何の騒ぎなんですかこれは」
「ぼくもそろそろキレるとこだったからありがたいや」
「麗羅」
部屋の中にあったと思われる家具を一通り庭に投げ出すと、劉鵬が肩で息をしながら小龍をにらみつけた。
「あやまらねえからな」
「・・・」
小龍がかがんで、割れた鏡のかけらを拾う。
「何か言え、小龍」
小龍が答えないでいると、劉鵬が泣きそうな顔で叫んだ。
「何か言ってくれ、小龍!」
庭に飛び散っているのは小龍が現在使っている項羽の部屋の荷物だった。
「項羽は死んだんだ」 劉鵬が叫ぶ。
「項羽は死んだんだ! もう、帰ってこないんじゃ!」
小龍は答えない。
霧風も唇を噛んだ。
竜魔もやはり口を閉ざしたまま、二人を見ている。
先ほどから冷ややかな目で庭でのやりとりをみていた麗羅が、二人の間に立った。
「ぼくたち、これでも1年何も言わずに見守っていたつもりなんだけどさあ」
鏡の破片を拾う小龍の手に、麗羅が手を重ねた。
「おかしいよ、小龍」
「…」
「おかしいのは小龍っていうより、親父さんたちなんだろうけどさ。普通死んだ兄貴の部屋に弟住まわせないって」
小龍はまだ答えない。
「でもって、弟だっていくら兄貴と仲がよくても、そのまま死んだ兄貴の部屋で暮らさないって」
ぼわりと風が立つ気配があって、積み上げられた家具が炎を上げる。
「麗羅!」 はっとして小龍が声を上げた。
「…全部、燃やすよ?」
麗羅の瞳が赤く光る。
ゴウ、と熱風を上げて陽炎が立った。
小龍が思わず燃え上がる本棚に駆け寄った。
「危ない!」霧風が声をあげる。
「…邪魔する気?」
麗羅が不機嫌に赤い瞳を細める。
霧風が炎を押さえたのだ。
「小龍がいやがっています」
「はん」
麗羅がせせら笑う。
「何もなかったようにしてやるのが優しさだとでも思ってんの?霧風」
「…」
「違うでしょ。傷に触れないようにするのは優しさでもなんでもない。小龍はもう十分その役目を果たしてる。これ以上項羽に縛られることはない」
「…縛られてなんか、いない」
小龍が立ち上がる。
「縛られてなんか、いない」
焔が上がる。
小龍の表情は見えない。
(20050215)項羽がいなくなって、じきに二年経とうという、秋。
暗いな。
出口の見えない場所でみんなもがいている。
誰かが穴を開けないと、いけない。
それは麗羅の焔なのか、霧風の優しさなのか。
(up;20060402)
にしても 「麗羅がせせら笑う」なんて文章を書くことになろうとは(遠い目)20年前には思ってもいなかったよ・・・
2006/04/02(Sun) 13:13