風太の風の里日記 9

風太の★風の里日記★ その10

★これまでのあらすじ★
  情に厚いが機械に疎い、ちょっと不器用な照れ屋さん、漢・独眼竜の竜魔がネット生活を開始、里のみんなにナイショで風太さんって名前でブログを始めたんだけど、なんと風太さんとオフ会をしようって話が常連さんたちの中で盛り上がってきちゃったらしいゾ☆



「小龍、いるか?」

若干やつれた竜魔が訪ねてきたのは午後まだ早い時間だった。

「どうかしたのか?」
「…今日は項羽、…いないんだったよな」
「なんだよ、兄貴に聞かれたくない話?」
「まあちょっと…その、お前に聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「かまわないよ。何」

 何かの練習をしていた小龍は額の汗を持っていた布でぬぐうと、一旦屋敷の中に戻って上着を羽織って出てきた。手には缶入りのコーヒーを持っている。

「飲むだろ」
「ああ、サンキュ」
「部屋の中行く?それとも外?兄貴いないから部屋でもいいけれど」
「うむ、外でかまわない」
「ふうん」

 羽根屋敷の裏庭から、里の東の端に出られる。小さな小川が流れ、この時期は散歩にはちょうどいい。

「何か、相談?」

なかなか口を開こうとしない竜魔に、小龍が聞いた。

「・・・うむ・・・」

「言いたくないことなら敢えて聞こうとは思わないけれど」
「いや、そういうわけではない」
「うん」
「・・・」
「あの、えーと、聞きたいことがあるんだ」
「俺でわかることなら」

「お、おっ・・・『オフアイ』というのは一体なんだ?」

「は?オフアイ?・・・オフ会のことか?」
「う・・・うむ?・・・オフカイというのか」
「何、誰かと会うの?」
「会うのか?オフ会の会は会うという字だものな!」

一瞬間を置いて、小龍が目を鋭くする。

「・・・竜魔お前もしかして、出会い系サイトとかに手を出しているんじゃねえだろうな」
「ぶ!なんだそれは!いくら俺でも出会い系サイトってのは知っているぞ!ボタンを押すと8万円とか請求されるやつだろう!そ、そんなところには行かない!断じていかないぞう!」
「それはワンクリック詐欺だと思うが・・・そうだな、お前は出会い系サイトとか使うタイプじゃないものな」
「あっ、当たり前だ!援助交際とかいうやつだろう!知っているぞ!」
「微妙に違う気はするが、まあいいだろう。で、オフ会がどうしたんだ」
「うむ・・・会おうということで都合のいい日程を聞かれたのだ」
「それ、どんなつながりの知り合い?」
「む」
「基本的には、ネットというのはバーチャルで匿名性の高い世界だから、実際に会うとイメージもずいぶん違うし、あまり会わない方がいいと思うよ」
「・・・そうか・・・バーチャンか…」
「特に俺たちは、『普通』じゃないしね」
小龍がほんの一瞬、寂しそうな瞳をする。
そんな小龍を見て、竜魔も胸を突かれた。


 そうだ。だから自分はブログを始めたのだ。
 最初はつたない日記で、未だに人差し指一本でキーを押しているのだけれど、
 返事をもらったり、一生懸命返事を書いたり、知らない人と交流ができたり、
 自分がごく普通の、平凡な一人の村役場のお兄さんのような気がして、
 …嬉しかったのだ。
 
 普通なら知り合うこともないはずの東京のOLさんや、関西の学生さんや、北海道のおじさんや、隣村の人々と、つながりあうことができるだなんて。それまでの竜魔には思いもよらないことだったのだ。


「別に会うなといっているわけじゃない」
竜魔の表情に気がついたのか、小龍が言葉を継いだ。
「変な女の子とかと会うわけじゃないんだろ?趣味か何かで知り合いが出来た?」
「む・・・。そ、そうだ。ちょっと趣味で知り合いが出来て、親しくしていただいているのだ」
「そう」

 小龍がふっと息をついた。

「だったらいいんじゃねえの?子どもだけで逢いに行くっていうなら、犯罪や面倒なことに巻き込まれる事が今すごく多いから止めるけど、竜魔大人だし。ただ、行く場所とか自分の所在とかははっきりさせておいた方がいい」
「・・・うむ」
「俺たちがさ、風魔の人間じゃないってことで『普通』の友人が出来たりするためには、ある意味ネットのオン友って、有効なのかもしれないな」
「・・・」

 竜魔にはネットのオン友という言葉の意味はわからなかったが、小龍の言いたいことは伝わってきた。


 自分たちは孤独に耐えうるように出来ている。

  
 それは、訓練で培ったものだ。
  だが、それでも。
 時々でもいい、誰かとつながっていることを確認したいのだ。
 それが匿名の世界であっても。
 相手が、バーチャンであっても。


「ま、自分でよく考えて決めな。それから、実際逢うときは、目印とか決めていった方がいいよ。着ている服とか」
「ふむ」
「で、」
小龍がいたずらそうに笑った。

「相手の子、可愛いといいね」




(20060809)






 竜魔と小龍という組み合わせでお送りいたしました。(ニヤ
 いつになく力作です(笑)

 あの、「風太シリーズがこばさんの書くもので一番好きです」とか言われました。・・・嬉しいんですが微妙です(照)

 頑張れ風太!
 でもってオフ会どうすんだよ風太!

         (up:20061009体育の日)





2006/10/09(Mon) 18:54