風紋 (八忍選出編 2)
八忍選出の次期が近いという噂が流れて、最近の里では若い衆がたいへんもりあがっていた。
「いいことじゃん?」
小龍が面を外して、にっこりと笑う。屈託の無い様子に、逆に霧風は眉をしかめた。
「それで最近みんな気合が入っているからな。今年の団体戦はいただきだぜ」
「…京都の伏見一族とやるんでしたっけ」
「九州勢も手ごわい。油断はならねえぜ」
小龍が言うのは忍びの里同士で行われる柔剣道大会のことだ。今年度の剣道団体戦は小龍・雷炎・十蔵を中心にして、かなりの期待を背負っている。
「みんな、本気で自分が八忍に選ばれる可能性があると思っているんですかね」
「努力次第で可能性があるってことはいいことだよ」
「…本来なら」
「なんだよ」
「実力から言えば貴方こそ八忍に名を連ねるべき最有力候補でしょう」
「だってうちは、兄貴いるから」
当然のような顔で小龍が答える。
「俺は最初から数に入っていないからさ」
「…なんでそういうことを当たり前のような顔で言うんですか」
「当たり前だからだよ。…なんでお前が怒るんだよ」
「怒っていません」
「怒ってんじゃん」
「実力のある人間が認められない現在の体制が不満なだけです」
「買ってくれるのはありがたいけどさあ」
小龍が素振りを始める。
資質が優れているのは言うまでもないが、霧風の知る限り小龍は努力も怠らない。
「どうでもいいやつにどう思われようと俺はかまわないんだよね。たった一人でも自分が信頼している人に認められていれば、八忍とか名前とか名誉とか、わりとどうでもいいんじゃないかな」
「ご立派な意見で」
小龍らしいと霧風は思ったが、小龍が言う彼が信頼しているたった一人の人というのは自分のことではなくて。
こんなに息苦しいのは何故だろうと思う。
どう思われたっていいはずなのに。
(20060204)
風紋は風が砂の上につける模様のこと。
風にはその気が無くても、相手の心には跡が残るの。
八忍選出編その2にあたります。
(その1「風車」、その2「風紋」)
その3「風神」に続く…予定なんだけれど、現在座礁に乗り上げているのでいつかまた。
いつか描けるときがくるかな。
(up;20070808)
2007/08/08(Wed) 13:05