麝香

麝香

安い香水の匂いは、汗の乾いた匂いに似ていると思う。

小龍が眉をしかめたのを見て、項羽は挑戦的な表情で笑った。
「朝帰りかよ、不謹慎だな」
「寝かせてもらえなかったんで、チェックアウト延長」
うそぶく項羽に、小龍がため息をつく。

「…今度の子、好きなの?」
「かわいい子だよ」
「俺は兄貴がその子を好きかどうかを聞いているんだよ」
「そこに触り心地のいいものがいれば触るだろ」
「兄貴」
「美味しい食べ物があれば食べるじゃねえか」
「…そんなんだから修羅場になるんだぞ」
「…ふん」
項羽が鼻で笑う。

「お前じゃなきゃ誰でも同じなんだよ」


安い香水の匂いが消えると、兄貴の髪からはほのかに麝香の香りがする。



 


    




(20090412)
触り心地のいい女の子がそこにいたら触るし、美味しそうな食べ物があれば食べてみる。
お前じゃなきゃ、あとはみんな同じと言い切る悪いお兄さんに、
それはおおざっぱすぎるんじゃないかと思う小龍。

羽根兄弟はいい匂いがしたらいいと思うんです。

項羽は少し麝香の香り、小龍は白檀の香りがすると思っています。

短い作でしたが評判がよかった一本です。
 




2006/04/16(Sun) 12:07