寝巻
「具合が悪い」
小次郎が珍しくそんな事を言うので、竜魔は眉を曇らせた。
体育の長距離走がイヤでそう言っているのかとも思ったのだが、聞けば給食も残したのだというから、尋常ではないかもしれない。
「大丈夫か?」
「だるいから、今日はもう寝る」
「…わかった。水分は取れよ」
「あとでなんか飲むもの持ってきて」
「うむ」
おとなしく小次郎が部屋に向かう。
困ったことに、今日は総帥が留守なのだ。竜魔一人ではどうにもできないので、取りあえず医学の心得のありそうな友人に電話してみる。
「えー、仮病じゃねえの」
電話に出たのは項羽で、竜魔の話を最後まで聞くこともなく小次郎が仮病と決めつける。ちょっとむっとした竜魔だったが、他に対処法を聞く心当たりもないので、おとなしく教えを請う。
「なんで仮病だと言い切れる」
「だって馬鹿は風邪ひかねーもん」
「…確かに、小次郎は馬鹿だが」
「だろ?」
「…とにかく、具合が悪いんだそうだ。それに、食欲がないという」
「何、小次郎のくせに給食残したのか?それは心配だな」
電話口の向こうから、何か兄に話す小龍の声がする。
「今日の給食はひじきごはんだったからじゃねえのか、だってよ」
「…むう」
「ま、こないだうちの弟が風邪ひいたときに見舞いにきてくれたからな、うつったのかもしれねえ」
「何!それを先に言え」
「布団に入れて、汗かかせて、下着替えて、なんか飲ませて一晩寝かせてやれば治るぜ?」
「………小龍は三日ほど休んでいたが?」
「あいつ熱高かったからな。汗かかせてねえもん」
「は?」
「馬鹿だなあ、布団に寝かせてやることったら一個だろうが」
「……お前の言っていることはよくわからんのだが」
「だから貴様はヘタレなんだよ。ナニ飲ませりゃいいのかもわかってねえだろ」
「……切る」
どっと疲れた竜魔が薄暗くなった部屋に水差しを持ってそっと入ると、うつらうつらしていたらしい小次郎が目をあけた。
「起こしたか?」
「丁度起きたとこ」
汗で前髪が額に張り付いている。そっと触るが、熱はない様子だった。
「竜魔の手、気持ちいいや」
「…」
布団に寝かせてやることなどといったら、一つに決まっていて。
項羽のからかうような声が耳によみがえってくる。
「…なんか飲むか?」
「起きるのだるいな」
小次郎が甘えた声を出す。
「飲ませて」
口に含んだ水を、しばらくためらった後、口移しで与える。
小次郎の喉がこくんと鳴った。
「…もっと…」
* *
「やっぱり長距離走がイヤで仮病か」
「多分な」
「具合悪いってのもアレだろ、寝不足か」
「昨晩夜釣りで夜更かししたのに、今日は厳しい先生続きで授業中寝られなかったらしいからな」
「前沢のおじいに付き合ったんなら、ほとんど徹夜だったんだろうな」
「の、わりに釣果はあがらなかったらしいし」
小龍が困ったように笑う。前沢のおじいというのは、里では有名な釣り天狗のじいさんで、小次郎とは大の仲良しだ。しょっちゅう小次郎を連れ出しては釣りに誘う。
「その上頼みの綱の給食が苦手のひじきご飯じゃ、そりゃ具合も悪くなるよな」
「兄貴、笑いすぎ」
「おおい、小次郎、見舞いに来てやったぜ!」
襖を開けた羽根兄弟が何を見たのかはまあさておいといて。
(20060415)
うぎゃーあー なんだこりゃー(笑
春先の風邪シリーズを書いたときに下手な風邪ネタを、とのリクエストにお答えしてみたよ!
こんなのも自分でサイトもってなきゃ恥ずかしくってちらりとだって見せられねえよ!
内容はまあえーとそんなに色っぽくないんですが誘い受け天然小次郎と、踏み込めないヘタレ竜魔で仲良く暮らしておりますよ!
てか、給食って!中学生かこいつらまだ!とか突っ込んでみますよ。(脱兎)
(up:20060939)
2006/09/30(Sat) 11:52