金鶏

金鶏


「うわ、なつかしい」

古い文集の表紙は既に色が変わっていて、劉鵬が息を吹きかけるとホコリが飛んだ。

「小龍の作文が載ってるぜ。読むか?」

さりげに差し出された文集は古いものだったが、どこかの優秀作文集だかで、確かに入賞者の中に小龍の名前があった。



  さちこ

 
 「さちこ、おはよう。」
 ぼくの朝はそう声をかけることから始まります。
 さちこはぼくの声を聞くと、クックッとないて、うれしそうに首を持ち上げます。
 さちこは全身が白いぼくのにわとりです。たまごから育てました。
 おとなしくてやさしいせいかくなので、ときどきエサを食べるときにえんりょをして、ほかのにわとりにエサをとられてしまうこともあります。毎朝とりたちにエサをあげるのはぼくのお手伝いなので、さちこにはとくにきをつけてエサをあげることにしています。さちこはぼくの声がわかるので、ぼくのあとをついてきます。さちこはとてもかわいいです。
 
 今年のお正月に、お客さまがたくさんきました。お父さんが、お客さまにごちそうをしないといけないと言いました。ぼくもごちそうは好きです。でも、お父さんが、さちこを食べるというので、おねがいだからさちこを食べないでくださいとたのんだのですが、お父さんはどうしても食べると言いました。なんどもなんどもたのみましたが、やっぱり、だめでした。
 さちこはもうたまごをあまり生まないので、これいじょう年をとると肉がかたくなってしまうのだそうです。ぼくは、さちこをたべてしまうとさちこに二度と会えなくなってしまうので、とてもつらかったです。
 
   (一部残酷シーンにつき中略)

 さちこの肉は、生みたてのたまごとおなじようにあたたかでした。ぼくはしばらくなきましたが、お父さんがなきやめというのでなくのをやめました。ないてもさちこはかえってこないからです。でも、お父さんはさちこの羽ねをみんなくれました。だいじにしようと思いました。
 さちこのそのあと、ていねいにばらばらにされて、いろいろなごちそうになりました。

 「いただきます」といって、手をあわせたとき、ぼくは、「ああ、いただきますのときに手をあわせるのは、食べるために殺したいきもののためなんだなあ」ときゅうにわかりました。
 お客さまがのこしたほねで、お兄ちゃんがおはかをつくってくれました。さちこをすっかりうめたときに、また少しだけなきました。
 ぼくはこれからも、いただきますのたびにさちこを思い出すと思います。
 


「…素直にいい話ですね、と言えない自分がいるのですが」
 霧風は丁重に言って冊子を劉鵬に返した。

 そういえば「幸子って名前で幸せになった女っていないよね」といつだか小龍が言っていた記憶はあるのだが。

 





 羽根屋敷ではニワトリを飼っているはずだと思う。

 (作文後半追加;20060222)