野薊 (のあざみ)
「うわ、なんだよそれ」
風呂は一緒に入らないで欲しいと言ったのに、やっぱり後から入ってきた項羽が声を上げた。
「首の跡。ちょっと見せろ」
小龍は気まずく首をすくめる。まあ、どうせ遅かれ早かれ気付かれることなのだが。
「俺はてっきり麗羅あたりがいやがらせで跡でもつけたのかと思ったんだけど」
部屋でも詰め襟を崩さなかった小龍を兄はずっと訝しんでいたのだが、風呂で見た弟の首には、指の跡がくっきりと残っていた。麗羅は首に跡を残すようなそんなヘマはしない。口にはしないがそんなことを小龍はこっそり思う。
項羽が首の跡に触れた。昨晩、ちょっともめて、父親に首を絞められたのだ。殴られることには慣れているが、首を絞められたのはさすがに初めてだったので少し驚いた。だが、それだけのことだ。
「大丈夫だって。風呂に入ったから鬱血が濃く見えるだけで。二、三日で消える」
「だから、お前の大丈夫は全然信用できねえって言ってんだろうが」
「…あいつ、殺しちゃおうか?」
声をひそめて、兄がささやく。
「ばれないようにうまくやるからさ」
「…大丈夫だってば」
小龍が風呂の中に身を沈める。
甘い痛みを伴った棘が、どこかに鈍く刺さっているような気がする。
それは薊の柔らかいのに鋭い棘に似ていて。
(up;20060611)
薊...アザミは菊科の多年草。日本には六十数種の自生があるそうな。若葉には棘があるが煮ると柔らかくなり、根とともに食用。薬草としても知られる。野アザミは晩春に花をつけ、アザミの中では一番早く花をつける。夏のアザミは、俳句では夏薊と呼んで季題にする。
しかしなんだこの親父!児童相談所に連絡ですよ奥さん!
親父さんちゃんとカウンセリングとか受けないとダメだよ!
項羽はこっそり親父の食べ物に毒混ぜ始めそうですよ。
2006/06/11(Sun) 17:40