鬼灯 (ホオズキ)
「お前さ、最近霧風のこと、呼び捨てにするのな」
項羽が壁によりかかったままで弟に言った。
小龍が兄の方にゆっくりと顔を向ける。
「霧のこと?昔から呼び捨てだよ。先輩とか付けたことないって」
「違う」
項羽がきつい声を出す。
「『霧』、って」
「・・・・」
世界で一番信頼している弟が、少し小首をかしげるような動作をした。
「だって、『霧風』っての、呼びづらくない?」
「ふうん」
直感で。
弟がシラを切ったのは感じたが、項羽は目を鋭く細めただけだった。
最近、弟がこれまで自分にしかむけたことのない、うち解けたひどく優しい調子で項羽の同級生の名前を呼ぶことがある。
「じゃあ、俺もあいつのこと霧って呼んでみようかな」
「呼んでみれば?いやがりそうだけど」
屈託のない表情で小龍が笑う。
項羽は一人難しい顔をしてみせた。
この弟が泣くようなことがあったら、自分は誰も許さないと思う。
(2005/11/11)
ホオズキは秋の季語ですね。
その前の夏に何かあったのでしょう。
ちょっと先の話。
二人のときだけに小龍が霧風を「きり」と平仮名っぽく呼んでるとかわいいと思う。
項羽はそういうことに敏感な方だからほら。
このあと、項羽も霧風のことを「きり」とか呼んでみて、案の定すごく嫌な顔をされたりするのでした。
2005/11/09(Wed) 23:29