日盛

日盛 (ひざかり)

「あっつー…」
小次郎がだらーっと手足を伸ばす。高台の木の下で、寝転がっているのだが。
かすかに吹く風が、頬をなでる。

「こんなとこでサボってたのか」
冷静な声で小龍が言う。
「だってよ~」
これだけ熱いと、と小次郎が草むらに転がった。バッタが幾匹か飛び立つ。
「なんでこんなに暑いんだ~?誰か教えてくれ~」
「地球が太陽に近づいているからだろ。理科で習わなかったか」
「だ~からって~」
「ほれ、起きろ」
「暑いよ~」
「だらだらしてると、溶けるぞ」
「うが~」

「うわ~、小次郎駄目人間っぽい!」
元気な声は麗羅だ。

「ほら、迎えが来たぞ、駄目人間」
「なんでそんなに元気なんだ~」
「お前が溶けているだけだよ。しょうがないな~」
麗羅が喜々として小次郎の腕をひっぱる。
「さ、行こう行こう。お祭りの屋台作らなくっちゃ☆」

「麗羅って、本当に暑いの平気だよな」
小龍が言うと、麗羅はにっこりとほほえんだ。
「夏は暑くないとね!暑い方が調子いいよ。血が騒ぐっていうか~」
さすが焔の一族。
「血行よくなって、生き生きするじゃない?ああ生きてる~って思うけどなあ」
「血行って」

「くそう…」
だらだらと汗を流しながら小次郎がよろめいて立ち上がる。
「大丈夫か?熱中症とかあるから、ゆっくりした方が…」
小龍が言うが、麗羅は落ちていた麦わら帽子を小次郎にかぶせるとぽんとたたく。
「沸騰するほどの脳みそが入っているとは思えないけどねえ。ま、小次郎のちっちゃなおミソは煮詰まるくらいで丁度いいと思うけど?」
「麗…」
お前な、と小龍がため息をつく。確かに暑いことは暑いのだが。
「大丈夫大丈夫。どーせお祭りになったらピンピンして生き返るんだから」
「容赦ねえな」
「暑い~」
「子どものお守りは疲れるな~。こら、小次郎、屋台の組み立て手伝わないと、お祭りで買い食い禁止するよ!」
「ひで~!!」
「泣き言なんざ言わずにさっさと行けよ」
麗羅が小次郎の腰を後ろから蹴る。

「お祭りの準備はじまっちゃうと、夏も後半って感じがするよね」
ぽつりと麗羅がつぶやく。
「そうだな」
小龍が答えた。

 天を仰ぐといつの間にか空の青が高くなっている。
 空を横切るのはトンボの姿だ。

里の夏祭りがあるともう8月も半分が過ぎる。暦の上ではもう秋なのだ。





 (20060810)

 夏の酷暑の中、秋の気配がする。
 そんな一日。

 風の音に、ふと秋を感じると歌ったのは平安時代の歌人でしたが。
 個人的には24時間テレビやってるの見ると、夏休み終わりだなあっていつも思っていました。


 

2006/08/11(Fri) 12:27