青芒

青芒 (アオススキ)

「…何の騒ぎ?」

 霧風が青萱の中でじゃれあっている集団を指して言った。

一メートル近いススキが青々と生い茂る広場は、少し離れるともう互いの姿が見えない。
少し離れた所に座って本を読んでいた霧風を見つけた小龍が、賑やかな一団から抜け出して近くに座った。


「小次郎の歯がとれてさ」
さもおかしそうに小龍が言うので霧風がぎょっとして聞き返した。

「折れたんですか?」
「いや、抜けたんだ。子どもの歯」
「ああ、乳歯」
「そう。奥歯がまだ乳歯だったらしいんだよ。それで、取れた歯で遊んでいたら」
言いかけて小龍がまた思い出して笑う。

「遊んでいたら?」
小龍がしばらく笑っているので、霧風が話を軽く促した。

「ああ、遊んでいたら、竜魔がそういうもので遊ぶものじゃない、って、小次郎の歯を取りあげたまではよかったんだが、今度は竜魔がその歯を返さなかったもんだから、追いかけっこが始まっちゃってさ」

「……どうするんですか、そんなもの……」
「まじないにでも使う気なんじゃねえの?」
「歯を?」
「竜魔は変態っぽいところがあるからなあー」

 それでか、と霧風はまだ賑やかな集団の方向に目をやる。
 小次郎と竜魔の追いかけっこはまだしばらく続きそうだ。



 「何?」
 小龍が顔を向けた。
「いや、別に……小龍、歯は全部生え替わった?」
「うーん、俺はもう全部生え替わっているな。親知らずはまだ生えてないけど。確か結構永久歯になったの早い方だったと思うよ」
小龍がのびをしながら思い出すように言う。

「ほら、むこうの叔父さんが、歯がちょっとでもグラグラすると糸つけて引っぱって抜こうとするんだよな。それが嫌で、自分でこっそり取ろうといじったりしてさ」
「……ふうん」

 だいたい小学生で歯は生え替わるものだったような気がする。
 自分はどうだったかな、などと霧風はぼんやりと考える。


「……」


気のない返事をした霧風に、小龍がそっと顔を近づけて、
ふわりと唇が重った。


「!」


「あれ、今したそうだったんだけれど。違った?」


  いや、確かに口元を見ていたかもしれないが。
  したいのかしたくないのかと聞かれれば答は決まっているわけで。


「…誰かに見つかったらどうする気ですか」
「大丈夫だよ」
いたずらっぽく小龍が笑う。

 遠くから風に乗って小次郎たちの周囲であがる歓声が聞こえてくる。

「場所をわきまえないと」
「したいときがしたい場所だろ」
「……いつもは」
「なんだよ」
「いつもは、見られたらいやだって滅多に触らせもしないくせに」
「うるさいな、嫌なら二度としないぞ」

「それは困ります」


霧風が難しい顔をしながら小龍をひきよせた。



  夏のむせかえるような草いきれの中で、いつになく甘い口づけを。



 







 (20050615)

 たまには小龍から、ということで。
 はうっ、誘い受けってやつですかもしかして。
 誘い攻め? ・・・専門用語はよくわかりません。

 そのまま調子に乗って霧が押し倒したところで逃げられる。


 絵的には小龍がいくほうが好きなんですけれど、
 精神的には霧→小でベタボレ。



 って、竜魔! 返しなさいね、ソレ。

  小次郎 中1~中2設定。 奥歯が乳歯。 










2005/06/20(Mon) 19:07