手袋
白い息を吹きかけて、赤くなった指先を暖めている小龍を見かねて、霧風が自分のしていた手袋を差し出した。
「敵が来るかもしれないってときに、指がかじかんでいちゃ、話にならないんじゃないですか」
「大丈夫。…だと、思うんだけど。今朝は冷えるな」
「今年一番の冷え込みだそうです。ほら、手袋」
ほんの短い時間、小龍は躊躇した様子だったが、片方だけを受け取り、残りの左手を霧風に返した。
「片方だけでいい」
「わたしなら、大丈夫ですから」
変に遠慮しないで、といいかけたが、小龍はさっさと右だけ手袋をはめてしまって、大きな羽を指に挟んだ。
「うん。このくらい薄手の手袋だと大丈夫そうだ」
「そうですか」
「厚手の手袋だとさ、感覚が鈍るんだよ」
「…ああ、それで手袋をしないのですか」
言われてみれば、羽根兄弟が手袋をしている姿をあまり見たことがないような気がする。
「それもあるな。皮製で薄手のいいやつがあるといいんだけど、なかなかちょうどいいのがなくってさ」
霧風は返された左だけの手袋を身につける。
朝のうちに敵襲がなければ、今日の任務は終わりだ。あったとしても、敵を霍乱して数時間足止めをすればいいというだけの命令なので、今回は比較的楽な任務だった。ただ、昨晩から朝にかけて、寒いのが難であったが贅沢も言っていられない。
「…なんですか?」
小龍が手を伸ばしたので、霧風が聞くと、裸の右手が握られた。
「何って、お前、寒いだろ」
小龍が冷たい左手で、霧風の右手を握ったまま、自分のポケットに入れる。
「あと1時間でいいんだよな」
「…ええ」
このままでいいなら、もう少しここにいてもいいんだけれど、と霧風は白い息の中で思った。
指先からあたたかい熱が上ってくる。
(20051225)
ひとつの手袋をふたりではめるのは可愛いと思うんだ。
んで、「その手袋があれですか、平成風魔で羽根兄弟がはめている手袋になるわけですね、わかります」と当時言われました。うむ。
up;20060109
2006/01/15(Sun) 21:31