風花

花園

「やばいやばいやばいやばい!」
風花は朝から頭を抱えている。

昨晩鞄の中にいつものノートがなかったので、机の引き出しの中にあるのだろうと思っていたら、
大事な秘密ノートがどこにもないのだ。

アレを誰かに見られてしまったら大変なのだ。
しっかりものの優等生だと誉れ高い甲斐の風花の信用失墜、その名は地に墜ちてしまう。

「ねえ、風ちゃん、よく思い出してみなよ」
心配して親友のナズナが大きな眼鏡越しに風花を見つめる。
「昨日の放課後、新作の第36話を私に見せてくれたんだよね。その後だよ」
「う、うん…」
もう一人の親友、寒菊も一緒に探してくれているのだが、赤いストライプの大判のノートは出てくる気配がない。

「まずいよね、あれ、誰かに見られちゃあ」
「そう。特にあの辺の先輩とかさ」
「言うなっ! そんな最悪の事態を想定しないでっ!」
珍しく取り乱して風花が親友の言葉を制止した。

そう、風花の秘密ノートには、彼女がただいま鋭意制作中のエロエロバイオレンスな超能力戦士が飛び交うボーイズラブ小説がびっしりと書き込まれているのであった。

「ごめんね、風ちゃん。あたしが早く読みたいって言わなければよかったのに」
「う…ううん…ナズナのせいじゃないよ。ナズナが感想聞かせてくれるの、すっごい励みになってるから」
「あーあ、あたしまだ玻璃風が地下牢に閉じこめられて闇一族の首領堕悪(ダアク)にどんな辱めを受けるのか読んでないのにぃ」
「今回もスゴイのよ寒ちゃん!すっごいエロいのっ!風花ったら絶対才能あるんだよー!」
「ぶっ!頼むから学校で大きな声で言わないでっ!」
「いやしかし、アレがなくなったのはまずいねえ」
寒菊はちょっと複雑な表情でううーん、とうなった。



 玻璃風というのは風花が現在執筆中の「魔風忍法帳」の黒髪長髪の魔性の美青年主人公で、あちらこちらで陵辱されたりなんだりしながら忍びの里をわたり歩く流浪の抜け忍なのだ。
 その恋人で(ボーイズラブなのでもちろん男)、里の幼馴染みであり、なおかつ玻璃風を里に戻すために追いながらもすれ違いばかりでなかなか逢うことが出来ず、たまに逢えてもお互いの気持ちを確認しあう前に必ず邪魔が入る相手役が赤い瞳をした焔遣いの美青年で、名前を焔羅という。



ナ 「職員室には聞いた?」
寒 「落とし物って生活指導かな」
風 「一応、落とし物にはノートとかないってさ」
寒 「うーん、図書委員会ってあの日あったんだよね」
ナ 「うん。4時から一部仕事のある人だけ再登校してた」
図書委員会に入っているナズナが風花のロッカーをもう一度探しながら答える。
寒 「図書委員か…」
ナ 「誰かに拾われていると困る…よね?」
風 「だったらいっそ犬が持って行って捨ててくれていればいい!」
寒 「それはそれで本陣の小次郎あたりが見つけて竜魔先輩あたりに見せちゃいそう」
風 「うぎゃあああああ」
ナ 「風ちゃん、気をしっかり!」

少女たちの苦悩はつきない。




「甲斐さんって、このクラス?」
「なんだ、珍しい」
なんか先輩が来たぞ、と教室がざわめいたところ、顔を出したのは焔屋敷の麗羅だった。幼なじみの小龍が応対する。
「甲斐って、…ああ、風花か。うちの学年の女子に何の用? 『麗羅先輩』」
「冷たいな。落とし物拾ったんだよ。甲斐さんって名前、彼女だけでしょ」

おそるおそる風花が麗羅のいる教室のドアのもとにいく。
「あの…あたしが甲斐ですが…」
「ああ、こんにちは。へえ、イメージと違うなあ」
「なんのご用件でしょうか?」
ちょっとむっとして風花が答えると、麗羅はにっこりと笑って赤いノートを差し出した。

「これ。君のだよね?」

麗羅の手から渡されたのは見覚えのある大切な赤いノート。

「…あ、あ、あの…」
「面白かったよ。」



 (20060223:up*060513)



 やべえ、魔風忍法帳、自分であらすじ書いていてものすごくイタかった!





2006/05/13(Sat) 14:12