雷雪

 

雪雷(ゆきいかづち)

「そろそろ観念しなって」
「だから、聞いてねえって」
雷炎が秀麗な顔立ちをしかめて、抗議をしている相手は小龍だ。

「馬鹿だなあ、なんであんなときに居眠りしてるんだよ」
「学活なんて眠る時間に決まっているからだろ」
雷炎が言い返すが、小龍はにやにやと人の悪い笑い方をした。
こういうときの彼は憎たらしいくらいに項羽に良く似ている。

 風魔の里では、比較的行事が少ない冬に、学芸会が催される。娯楽の少ない里でのことなので、意外なほど盛り上がる。歌や踊り、簡単な劇など、午前中は学生や子供たちがクラス単位で出し物を行う。午後は大人たちの出し物だ。
 今年は随分早くからクラスの女子たちが不穏な動きをしていたことに雷炎は気がついてはいたのだったが、少女たちの行動力を少しばかりなめていた。

 本日、いつものようにロングホームルームこと学級活動の時間を睡眠に当てていて、適当に手を上げたり下げたりだけしていたのだったが、小龍に起こされたときに黒板に書いてあった文字はなんと、

 白雪姫 雷炎  の文字であった。

「はぁ? なんだよそれ、俺、聞いてねえぞ」
「お前、寝ながら手を上げてたじゃねえか」
十蔵があきらめたような声を出す。
「雷炎がやるなら俺もやる、って条件だからな」

 魔女の継母 十蔵 (厚化粧でw)

「おいこらちょっとまて!」
「だって雷炎、手を挙げたじゃないのー」
最近勢力を誇っている風花という女生徒が甲高い声を上げた。
そうよそうよ、と女子どもが声を合わせる。

7人の小人たちにはずらっと女子生徒の名前が連なっている。

「小龍!」
「俺は万年大道具ですから」
「ずるいぞ、貴様」
「小龍クンは最後にちょっとだけ出演―」
司会をしていた女子の学級委員が黒板の一部を隠してあった紙をはずす。

 王子 小龍

「てめえら、グルだな!」
「グルだなんてとんでもない」
小龍が神妙な顔を作ってうなずいてみせる。
「俺も、お前以外の白雪姫に口付けをする予定はないからな」

女子から黄色い歓声が上がる。


「ふざけんな!」
そういい捨てて教室を飛び出したのは30分ほど前だった。


  *   *   *   *   *   


「まだ怒ってんの」
裏庭の中でも奥まった場所にある休息所で、雷炎はどっかりとベンチに腰掛けた。

「当たり前だ。お前らもあいつらにノセられてんじゃねえよ」
「面白そうなのに」
「正気で言ってんのか? 小龍」
「ナズナがさ、学芸会終わったら転校すんじゃん、知ってんだろ」
ナズナというのは彼らのクラスメートで、大きな眼鏡のおとなしいくのいちだった。

「思い出作ってやろうって、女子が張り切ってんだよ。わかってやれって」
「だからなんでそこで男女逆転の白雪姫なんだよ」
「王子様は俺だぜ」
「王子様は風花あたりがやる気だったんじゃねえの」
「最初はその予定だったんだけどさ、お前を抱きかかえられないだろうってことで、急遽俺になった」
「マジかよ!抱きかかえるつもりかよ!」
「キスシーンもやることになりそうだぞ、この台本だと」
「…とにかく、俺は絶対にやらないからな」
「雷炎」
「お前だって嫌だろう、こんなの!」
「俺はお前が白雪姫だってんなら王子やってもいいって思ったんだけどな」
「…小龍」
「セリフはクチパクでいいってさ。放送部の寒菊がアテレコしてくれるって。お前楽だよ、大丈夫だって」
「わざわざ笑いものになるつもりかよ」
「笑いは十蔵がとってくれるから」
小龍がにっこり笑う。
「雷炎綺麗なんだから、みせつけてやろうぜ?絶対舞台映えしていけるって」

「…あのなあ」
「キスシーンとか気にしてる?」
「大いに気になるね」

「ふうん」
小龍が雷炎の顔を覗き込む。

「…?」

そのまま、触れるだけのキスが交わされた。

「な、たいしたことじゃないだろ?」
「…ずるいぞ、お前」
雷炎がようやく発した言葉に、小龍は答えずに立ち上がった。
目の光を見れば、彼が何かをたくらんでいることは容易に察せられた。

「…面白いことなるんだろうな、小龍」
「お前次第だよ、雷炎」
小龍が笑う。
「しょうがねえな、今回だけだぞ、乗ってやる」
「そうこなくっちゃ」

小龍が伸ばした手を雷炎はしっかりと握って、立ち上がった。




 




 



 さあやってしまいましたBL王道の学芸会女装編(天界編女装)。
いまさら他でこんなベタなネタできないわってこばやしさん!ぢたばたしてみます。ああ、自分でサイト持っているっていいな!りゅうきさんありがとうだぜ!(笑

雷炎は前作(火蛾・病葉)だけにしようかと思っていたのですが、なんだか再登場。どうせなのでもっとがんばれ。

 SIDE A「雪雷」(ゆきいかずち) 雷炎サイド
 SIDE B「小雪」(こゆき)    小龍サイド
SIDE C「班雪」(はだれゆき)  霧風サイド という流れで書く予定です。
 みんなでもぢもぢしてみましょう。ふはは。
 雷炎ファーストキスだったらどうしましょうね。


クラスメートの風花(フウカちゃんですがここは風花=雪)、ナズナちゃん、寒菊ちゃんとみんな1月の季語。


1月って、普通は受験シーズンだから3年生は参加なし。
てか普通の学校は秋にやるよな、文化祭とか学芸会とか!
でも白雪姫にしたかったんだもん!てなわけで雪モチーフです。もふもふ。

 (2005/11/15)


 



2005/12/05(Mon) 17:08