山吹
「霧風じゃ、だめなの」
小次郎が生真面目な顔で聞いた。
「…だめじゃ、ないけれど」
かなり間をおいて答えたのは小龍だ。
「じゃあ、いいじゃん」
小次郎が口をとがらせる。
「そういう単純なもんじゃないんだよ」
伏せ目がちに小龍が答えた。
「大人みたいなものの言い方すんなよー、小龍」
「みんな小次郎みたいに単純じゃないんだって」
「そりゃ確かに、俺は単純だけどさ。…小龍は、もう少し我儘とか言っていいと思う」
「どういうこと」
「欲しいものは欲しいって言うとかさ」
黄色い花が風にゆらぐ。
手を伸ばせば届くのかもしれない。
ただ、手を伸ばしてしまって、それからどうなるというのだろう。
自分は羽根の一族の呪縛から出ることはできないのに。
小龍が黙ると、小次郎も黙ったまま座り込んだ。
一面の黄色い花。
「小鳥みたいだ」
小次郎が思い出したようにつぶやいた。
2005/10/10
山吹は春の季語。
タイトルの「山吹」は、「実のひとつだになきぞ悲しき」から。
実らないかもしれない思いは切ないよね、という暗示。
小次郎と小龍は仲良しで、小次郎は素直な気持ちで、小龍には幸せになって欲しいなー、と思っていると思う。
2005/10/10(Mon) 17:51