面影
「叔父さまは、かあさまが好きだったの?」
小龍が大きな瞳をあげて尋ねる。
青羽は思わず優しく微笑んだ。
10年前なら、おそらく呼吸が止まったであろう質問を、姉と同じ瞳の甥に聞かれて、ようやく自分は優しく笑うことができるようになったのだ、と青羽は思った。
「そうだよ。小龍のおかあさまはとても奇麗で強い方だったからね」
「ふうん」
小さな甥っ子はしばらくなにか考え込んでいたが、やがてぽつりとつぶやいた。
「じゃあ、叔父さまも俺のこと、嫌いになっちゃうんだね」
思いつめたようにうつむく小豆色の瞳は、やはり姉の白羽に生き写しだった。
「・・なんで、そんなことを思うんだい」
「だって」
小龍がつないでいる手を放して、立ち止まる。
「とうさまはかあさまをお好きだったから俺のことを嫌いなんだって」
「誰が、そんなことを」
「俺が、かあさまを殺したんだって」
「そんなことを、誰がお前に聞かせたんだ?」
「・・・・・」
青羽の語調が思わず強くなる。
少年は答えようとしない。
青羽はうつむく甥の肩を強くつかんだ。
少し眉根を寄せる表情も、驚くほど、姉に似ている。
この子の父親である義兄が、この子を疎んじているという噂は分家の自分の所にも聞えてきている。
姉は確かに、この子の命と引き換えに天に召されたのだが、それは誰のせいでもなかった。勿論この甥がそのためにひどいことを言われるいわれはないはずだった。
もし、彼が本当に父親に嫌われているというのなら、義兄が自分の息子の中に妻と同じ表情を見出すためなのであろう。
「そんなことはない」
青羽は小さな甥に言い聞かせる。
「そんなことはないんだよ、小龍。お前のおかあさまは、お前を生むためにこの世に生まれたんだ。」
「・・・でも」
甥っ子が口を開く。
「俺、もう少しでよかったから、かあさまと一緒に、いたかったな」
風の匂いがする。
青羽はいとけない甥を黙って抱きしめた。
(20050712)
ときには母のない子のように。
青羽は小龍・項羽の母親、白羽の弟。
先代の三兄弟については設定部屋を参照してください。
すいませんねなんだかもう捏造していて。
兄の赤羽も、弟の青羽も白羽を愛しておりました。
のちに、2年ほど小龍を預かって育てるのはこの青羽の叔父貴です。
小龍6歳とかもっと小さいくらいの年で。
2005/07/13(Wed) 23:33