記憶

 

記憶

 

生まれて最初の記憶って、どんな?

項羽にそう聞かれて、小龍は小首をかしげた。

「3歳くらいかな、たぶん」

 兄と一緒に、ゆらゆらと揺れる木漏れ日を、
 柔らかな布の上で見ていた記憶が遠くにあるような気がする。

「俺は、1歳のとき」
 神妙な顔で項羽が言う。

「本当かよ、兄貴」
小龍は笑ったが、項羽は真面目な顔のまま肯く。
「信じないのかよ」
「だって、1歳っていったら、まだ赤ん坊だろう」
「本当だよ」
「…へええ」
「あ、信じてないな」
「1歳だろ?」
「1歳だよ」
「どうして、1歳なのさ」
小龍が聞くと、項羽は軽くウィンクして弟の手を握った。

「…母さんがさ、お前のことを頼む、って俺に言ったんだ」
「え」
「何度も何度も。ほとんど赤ん坊の俺に向かって、『小龍をお願いね』って、繰り返していたんだ。俺たちの母さんの記憶だから、間違いない。そのあと母さんはいなくなっちまったから、あれは俺が1歳の時のはずだ」
「……」

「だから」
項羽が弟に笑いかける。

「俺は、絶対にお前を裏切らない」


  こういうことを平気で言える兄貴には、
  決して勝てないと小龍は苦笑いをした。


(20050609)




2005/06/09(Thu) 20:27

 

 

 

なんてったって羽根兄弟。